風は見えなくても風車は回る
音楽は見えなくても心に響く
J.S.バッハ
Track3 栄冠は君に輝く
1948年に学制の改定に伴い、それまでの「全国中等学校優勝野球大会」が「全国高等学校野球選手権大会」に改称する事になったことにあわせ、更にこの年の大会が第1回大会から数えて30回目の節目の大会であったことから主催者である朝日新聞社が新しい大会歌として全国から詞の応募を募りました。応募総数5,252編中から、最優秀作品に選ばれたのが加賀大介の詞でした。
加賀は野球球児でしたが、試合中の怪我による骨髄炎のために右足切断を余儀無くされ、野球を断念した経緯があります。この詞には、野球に対する加賀の熱い想いが強く込められているのです。
創唱歌手(発表当時のオリジナル)は、当時の名流行歌手である伊藤久男でした。ちなみに伊藤は当歌の作曲者である古関裕而とは戦前からの深い付き合いがある同郷(福島県)の友人同士であり、戦前から歌謡曲・軍歌・戦時歌謡においても名タッグとして活躍していました(2人の代表作は『イヨマンテの夜』、『暁に祈る』など)。この友情の話は昨年度放送されたNHKの朝ドラマ「エール」でも多々取り上げられており、ドラマを視聴していた方は曲を聴くと感動が蘇るのではないでしょうか。
今年の第103回全国高等学校野球選手権大会開会式では、ドラマで伊藤久男をモデルとした役を演じた山崎育三郎さんの独唱が披露されました。その歌声も大変素晴らしかったのですが、
今回は宇都宮短大付高校3年 早川愛さんの独唱をご紹介します。
大会歌を独唱する早川さんが中学の卒業文集に書いた将来の夢は「高校野球で独唱すること」。高校野球が大好きな父の敏彦さんとともに目指していたが、敏彦さんは昨年8月に胃がんで亡くなった。胸ポケットに父の写真を入れて臨んだオーディションは緊張したが、「私しか歌えない歌を歌おう」と明るい声を披露した。「開会式では聞いた人が歌詞の風景を浮かべるように歌いたい」と早川さん。夏に臨む選手たち、そして天国の父のために夢の舞台で歌声を響かせる。
動画説明文より引用
本当にイメージにぴったりの世界を表現する歌い方で、日本で高校野球のその中でも取り分け夏の甲子園が、毎年、大人気という核心を突いた正しく象徴的なパフォーマンスそのものではないかと感銘を受けました。
二度と帰らない日々の紛れもない情感、または人生の尊さの詩といっても良いけれども高校野球の夏の甲子園に人々が著しく惹かれるのは八月の盛り上がる熱気の季節感と相俟って一つのかけがえのない気持ちと切り放せないせいだと考えます。
早川さんの歌声はもちろんですがその凛とした佇まいに心を打たれます。