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2024/4/2 その他 IML Track21 夢やぶれて(I Dreamed a Dream)

 

 

風は見えなくても風車は回る

音楽は見えなくても心に響く

J.S.バッハ

 

 

 

 

 

Track21 夢やぶれて(I Dreamed a Dream)

 

「夢やぶれて」(I Dreamed a Dream)は、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の劇中曲です。クロード=ミシェル・シェーンベルク作曲、アラン・ブーブリル作詞、英訳詞はハーバート・クレッツマーです。英語のタイトルを直訳すると「夢を、夢見ていた」となります。

この曲を語る上で外せないのが、フランスの政治家でもあり小説家でもあるヴィクトル・ユーゴー(1802-1885)による、主人公ジャン・ヴァルジャンの生涯と永遠の真実の愛を描いた、『レミゼ』の略称で世界中の人々に愛されている『レ・ミゼラブル』の世界観です。レミゼの物語は1815年、ナポレオン1世が再び皇帝に即位するところから始まる激動の時代の話です。『レ・ミゼラブル』は『惨めな人々』という意味で、主人公は一応ジャン・ヴァルジャンとなっていますが、登場人物全員にドラマがあります。著者ユーゴーは、人々を闇から光へ導こうという強い思いで執筆をしたようです。原作は、政治的対立による亡命生活の最中に書かれており、出版当時の政治批判という側面も持っている、中々ボリューミーな作品となっています。小説5冊ぶんを3時間くらいに凝縮したミュージカルは、テンポよく進み、世界中で愛されています。実際、作品生誕の地ロンドンでは1985年以来ロングランが続き、日本では87年の初演から1~3年おきに再演され、現在までに世界53か国22言語で上演されているという驚異的な数字を叩き出しています。また、2012年には、イギリスとアメリカの合作で映画化され、日本国内での興業収入は58.9億円、米国ゴールデングローブ賞3部門受賞、米国アカデミー賞3部門受賞、日本アカデミー賞外国映画賞受賞など、興行的にも評価的にも大成功を収めています。

 

 

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ここで、レ・ミゼラブルの「夢やぶれて」に関係する部分のみ、概要を紹介します。とはいえ、少し?長くなります。お付き合いいただけると幸いです。

「夢やぶれて」を歌うのはファンティーヌという女性です。元々は、グリゼットという立場でした。グリゼットは、社会的にかなり下層の労働者階級で、大体16歳~20代後半までの女性を指したようです。ファンティーヌは、とある学生と恋に落ち、幸せな将来を夢見ます。しかし、上層中産階級以上の出身である学生が、下層階級のグリゼットと結婚することは事実上不可能に近かったのです。グリゼットは学生の現地妻にすぎず、修業年限がきて学生が親元に帰る時に別れます。もちろん、基本的にはグリゼット側もそれを承知で束の間の恋に酔いしれるわけです。ただ、遊びと割り切ることができない夢見る少女には、特に子供ができた場合は、悲惨で壮絶な境遇が待ち受けていました。中には子供を認知し、結婚もして…とハッピーエンドを迎えた人もいますが、相当なレアケースでした。

幸せな将来を夢見ていたファンティーヌは、身籠もると案の定学生に捨てられ、一人で子育てをすることとなります。なぜなら当時のフランスは堕胎が禁止されていたからです。そのため、出産だけは公立の産院で無料ですることができました。しかし、出産の世話はしても、職探しや育児の面倒まではみてくれません。生きていくには、子供を里子に出して職を見つけるしかありませんでした。ファンティーヌも例に漏れず、宿屋に子供を預け、工場で働くことになりました。当時のフランスでは、シングルマザーは『ふしだら』とされ、差別される対象でした。そのため、子供の存在をひた隠しにして懸命に働き、宿屋に仕送りをします。すると、美人で一生懸命なファンティーヌは、セクハラ工場長に気に入られるのですが、同僚の女性達からは妬まれてしまいます。

ある日、1通の手紙が同僚に見つかってしまいます。それは宿屋からの手紙でした。手紙には「子供が病気で死にそうだからお金を送れ」と書いてありました。この内容をバラされ、同僚とケンカになり、更に「夜は娼婦として働いている」と工場長に”嘘の告げ口”をされてしまいます。これにより、自分を執拗に狙っていた工場長の理不尽な怒りを買い、クビになってしまいます。次の職場なんて見つかりませんが、母子ともに生きるためにはお金が必要です。病気の子供のために身の回りのものを売り、子供の髪を売り、自分の髪の毛や歯までも売ります。しかし、それでもお金が足りず、ついに本当の娼婦に身を落とします。実は、貧困ゆえに娼婦にまで身を落とすのは、19世紀に未婚の母となった下層階級の女性が辿るごく一般的なコースだったようです。 そして、こうした不幸な運命を背負わされたのは、ほとんどが、主人に孕まされたあげく追い出された女中か、あるいは学生や兵士に誘惑されて捨てられたグリゼットでした。遅かれ早かれ「子供を捨てる(棄児院に棄てる)」か「自分を捨てる」かの二者択一を迫られたようです。

初めての娼婦の仕事が終わった後、ファンティーヌは「こんなはずではなかった」と嘆き、涙を流します。そこで歌うのがこの「夢やぶれて」です。ちなみに、このタイミングで歌うのが映画版で、舞台版では工場をクビになった直後に歌います。ただ幸せになりたかっただけなのに、夢を見ていた自分が馬鹿だった…という絶望を感じずにはいられません。歌詞の「dream」の回数は、たった3分程度の間になんと11回も出てきます。夢には「睡眠時に見る夢」と「希望・理想」という2つの種類がありますが、「自分が夢見ていたものは、いつか叶う理想ではなく、叶わぬただの幻想にすぎなかったのだ」と言い聞かせているように感じます。だから、曲名が直訳の「夢を、夢をみていた」ではなく「夢やぶれて」なんでしょうね。

 

映画版「レ・ミゼラブル」より 夢やぶれて 歌唱シーンの1コマ 圧巻です

 

このように『一人の夢見る少女が現実を知り絶望した女性となるまで』を歌った「夢やぶれて」で夢を掴んだのがスーザン・ボイルです。スコットランドの田舎町で生まれたスーザンが、世界中の話題をさらいました。イギリスの新人発掘オーディション番組『ブリテンズ・ゴット・タレント(BGT)』に登場した彼女は当時47歳で、すっぴんにボサボサ頭の“垢抜けないおばさん”といった風体でした。場違いともいえるスーザンの容姿と受け答えのたどたどしさに、皮肉な笑顔を浮かべていた聴衆と審査員でしたが、ひと度彼女が歌い出すと会場のムードは一変します。惜しくも優勝は逃しましたが、オーディションの様子が公開されると、全世界から注目を集め大ブレイクします。同年リリースされたファーストアルバムは、当時イギリスで最も売れたデビュー・アルバムとなりました。日本でも紅白歌合戦へのゲスト出演や日本武道館でのコンサートなど、大活躍でした。その後もヒットを飛ばし、順調に活躍していたスーザンでしたが、医師からアスペルガー症候群と診断され活動を休止するなど、低調な時期もありました。しかし、2014年には初めての恋人としてアメリカ人医師との熱愛が報じられ、仕事にも徐々に復帰するなど、元気そうな姿を見せました。2021年、東京オリンピックの開会式の終盤、オリンピックの旗が掲げられ、紙の鳩が空中を舞うという幻想的な演出で流れた『Wings To Fly(翼をください)』で素晴らしい声を響かせました。2022年に脳卒中で倒れ、話すことも歌うこともできなくなってしまっていましたが、再びステージで歌えるようになることだけを目標に、話すことと歌声を取り戻すために懸命に努力したそうです。

今回は、世界がスーザン・ボイルを知った日である、BGT予選の動画を紹介します。

 

 

 

いかがでしたか。

中年女性のシンデレラストーリーへの興奮は国境を越え、時代の社会現象のレベルに達しました。世界的な反響にともない「SuBo」という愛称もつきました。彼女の美しい歌声と、困難さを抱える中でも前向きに生きる姿、「夢を追いかけるのに、年齢や見た目は関係ない」という強いメッセージは、人々に勇気を与えています。

 

 

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